序章 婚活の現場に「無意識」が潜む
婚活をする人々は、自己PRを整え、条件を吟味し、効率的に相手を探そうとする。しかしその背後で、彼らを突き動かしているのは「無意識」である。
ある人は「自分は優しい人を求めている」と語るが、実際には父親から得られなかった承認を補完してくれる相手を探している。
また別の人は「高収入の相手」を条件に掲げるが、実はそれは「安定感」という元型的欲求を投影したものかもしれない。
結婚相談所のカウンセリング室では、表の言葉と裏の欲望、そして人生の意味への探求が錯綜している。
フロイト的視点は「欲望の抑圧」を、ユング的視点は「意味と象徴」を照らし出す。両者を組み合わせることで、婚活の現場に新しい光が差し込む。
第Ⅰ部 フロイト的視点からみる婚活
相談所で「年収600万以上の男性」を条件に掲げる女性は多い。表面的には「生活の安定」が理由だが、深層には「父親への欲望と失望の補償」が潜んでいる場合がある。
フロイト的に言えば、結婚相手の条件はしばしば「未解決のエディプス・コンプレックス」の投影である。
事例A
30代女性・公務員。
条件:「学歴・年収が自分以上の男性」。
実際のカウンセリングで、父親が学歴に厳しく、常に比較された体験が浮かび上がった。彼女は「父に認められたい欲望」を結婚相手探しに持ち込んでいた。
第2章 繰り返される失敗パターン
婚活で「毎回同じタイプに惹かれて失敗する」ケースがある。
これは「抑圧された欲望」が無意識に相手選びを支配しているからだ。
事例B
40代男性・会社員。
「なぜか自己中心的で自由奔放な女性にばかり惹かれる」と語る。
分析の過程で、幼少期に母親が家庭を支配していた記憶が浮上。彼は無意識に「母の再演」を繰り返し、支配的な女性を選び続けていた。
第3章 マッチングシステムと無意識
AI婚活アプリや相談所のマッチングシステムは、表面的条件で相性を測る。しかし実際の「惹かれあい」は、無意識の投影が決定する。
例えば「優しい雰囲気の人が好き」という女性が、実は「父に似た輪郭や声質」に反応している場合がある。
欲望はアルゴリズムを超えて働いている。
第Ⅱ部 ユング的視点からみる婚活
ユングによれば、恋愛や結婚相手は「アニマ/アニムス」の投影対象である。
女性が男性に求めるのは、彼女の心の中の「理想的男性像(アニムス)」の投影であり、男性が女性に惹かれるのは「アニマ」を外に見ているからだ。
事例C
20代男性・エンジニア。
「なぜか年上女性に惹かれる」と語る。
夢分析を通して、彼の無意識に「導いてくれる母性の元型」が強く働いていることが分かる。彼の恋愛は「アニマ投影」を通じて展開していた。
第5章 中年期の婚活と「影」との対決
30代後半以降の婚活では、「影」との対峙が重要になる。
たとえば「完璧主義で相手に妥協できない」人は、実は自分の「弱さ」を否認している。それを受け入れることで、はじめて相手と現実的関係を築ける。
事例D
アラフォー女性。
「条件に合う相手はいくらでも紹介されるのに、納得できない」と語る。
ユング心理学的には、彼女が受け入れられないのは「自分の影=不完全さ」。それを統合する過程が婚活成功の鍵となった。
第6章 結婚を「意味」の旅として捉える
ユングは人生後半を「意味探求の旅」と呼んだ。婚活も単なる条件交渉ではなく、「人生の意味を共に歩むパートナー探し」として再定義できる。
事例E
50代再婚希望男性。
若い頃は「見た目」重視で相手を選び失敗。
再婚では「価値観を分かち合える人」を求め、読書会で出会った女性と結婚した。
彼の婚活は「欲望から意味への移行」を象徴していた。
第Ⅲ部 結婚相談所カウンセリングの現場
カウンセラー:どんな相手を希望されていますか?
女性:年収600万以上、正社員、身長175cm以上で…。
カウンセラー:かなり明確な条件ですね。
女性:はい。妥協したくないんです。
(中略)
カウンセラー:その「妥協したくない気持ち」、誰に向けた思いだと感じますか?
女性:(沈黙の後)…父かもしれません。父はいつも「男は稼げ」と言っていました。
→ フロイト的解釈:父への欲望と反発の投影。
→ ユング的解釈:「権威的男性像」というアニムスの支配。
第8章 逐語記録②「夢が語る結婚」
男性:最近、夢で大きな川を渡ろうとしているんです。
カウンセラー:その時の気持ちは?
男性:怖いけど、渡らなきゃいけない気がして…。
→ フロイト的:性的欲望や結婚不安の象徴。
→ ユング的:「川渡り=人生の新段階への移行」の元型的象徴。
婚活の夢は、個人的不安であると同時に、普遍的な意味の物語でもある。
第Ⅳ部 婚活と社会・文化
欲望の側面:条件婚、スペック重視、打算的マッチング。
意味の側面:価値観共有、人生観、宗教や文化的背景。
現代の婚活は「欲望と意味のせめぎ合い」である。
アプリ婚活が流行するのは「欲望の合理化」であり、結婚相談所が支持され続けるのは「意味の伴走者」を提供するからだ。
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