加藤諦三教授の「甘えの心理 愛に出会う時、愛を失う時」について

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加藤諦三教授の著書「甘えの心理 愛に出会う時、愛を失う時」は、人間関係における「甘え」と愛の関係について深く探求した心理学的な論考です。本書では、愛情の中で人がどのように「甘え」を感じ、またそれによってどのように愛が形成されたり失われたりするのかが詳細に分析されています。以下では、この著書における重要なテーマを中心に論述していきます。


1. 「甘え」の概念
 まず、加藤諦三教授は「甘え」という言葉の多義性に着目し、その心理的意味を明確にしています。「甘え」という言葉は、日本文化において特有のニュアンスを持ち、愛情を求めることや相手に身を委ねること、依存することなどを指しますが、その裏には単なる依存心だけでなく、相手への信頼や安心感の表現も含まれます。教授は「甘え」を単純な弱さや依存ではなく、愛情関係の本質的な部分であり、深い人間関係においては重要な役割を果たすものと捉えています。


 「甘え」は、幼少期の親子関係の中で最も強く現れます。子供は母親に対して「甘える」ことで安心感や愛情を感じ、心の安定を得ます。この「甘え」によって子供は安心し、自己肯定感を育むのです。しかし、母親から適切な愛情や受容を得られなかった場合、「甘え」の感情は不完全なままとなり、後の人間関係において愛情を求める過度な依存や不安定な感情が生じる可能性があると教授は指摘します。


2. 「甘え」と愛の発見
 加藤諦三教授は「甘え」と愛の発見の関連性について詳しく論じています。人は愛情関係において「甘え」を通して自分の存在を相手に受け入れてもらうという安心感を得ます。これは、他者との関係性において自分の存在が肯定されるという重要な体験であり、愛情の中で自己を発見するプロセスでもあるといえます。したがって、「甘え」を感じられる関係性は、自己を深く理解し、自己愛を育てるための場となります。


 一方で、自己愛が適切に育っていない場合、「甘え」を通して無意識的に自己の欠けた部分を補おうとすることがあります。例えば、自分に自信が持てずに他者からの承認を過剰に求める場合や、愛情の欠如を感じているために他者に過度に依存するケースが挙げられます。これらの「甘え」は、健全な愛情関係を築く上で障害となることが多く、その背後には幼少期の愛情不足やトラウマが潜んでいることが多いと教授は述べています。


3. 「甘え」と愛の喪失
 「甘え」は愛情関係の中で重要な役割を果たす一方で、時にその過剰さや歪みが愛を失わせる要因ともなります。加藤諦三教授は、愛情が喪失する際の「甘え」の変容についても分析しています。


 愛情関係において、相手に対して「甘え」が過剰になると、相手に負担をかけたり、自分自身の不安定さが相手に伝わってしまったりします。その結果、相手が「甘え」を受け止めきれなくなり、関係が壊れる可能性が出てきます。また、過度な「甘え」を通して相手の愛情を試そうとする行動や、自己の価値を確認するために相手に依存する行為も、愛情関係に亀裂を生じさせることがあります。


 一方で、「甘え」を適切にコントロールし、相手との関係性を築く中で自己を見つめ直すことができると、愛情関係はより強固なものとなります。加藤諦三教授は、「甘え」が愛情関係の中で適切に表現されることが重要であり、相手に対する信頼や自己の心の安定が関係の持続に不可欠であると強調しています。


4. 「甘え」と成熟した愛
 愛情関係における「甘え」は、時に未熟な愛の表現として捉えられることがあります。しかし、加藤諦三教授は、成熟した愛情関係においても「甘え」が重要であると指摘しています。成熟した愛とは、単に依存し合う関係ではなく、相手を受け入れ、自分自身をも肯定できる愛の形です。このような愛情関係においては、「甘え」は相手への信頼や自己開示の一部として機能し、愛を深める役割を果たします。


 成熟した愛における「甘え」は、相手への依存ではなく、相手と共に成長するための自己表現であり、自己の弱さを見せることで相手との絆を深める手段でもあります。そのため、「甘え」を通して自分自身の不安や恐れを相手に伝え、それを相手と共有することが、関係性の深化につながると教授は述べています。


5. 「甘え」と個人の心の成熟
加藤諦三教授はまた、「甘え」を通して人が心の成熟を遂げるプロセスについても考察しています。「甘え」を経験することで、人は他者との関係性の中で自分自身を見つめ直し、自己を理解し、受け入れることができるようになります。これは、自己のアイデンティティの確立や、自己肯定感の向上に寄与し、結果的に心の成熟を促します。
心が成熟することで、愛情関係においても相手に対して過度な期待や依存をしなくなり、健全な「甘え」を通して相手との関係を築くことができるようになります。このような心の成熟は、愛情関係を長く持続させ、より深い絆を築くために不可欠な要素であると教授は述べています。


6. 結論
 加藤諦三教授の「甘えの心理 愛に出会う時、愛を失う時」は、「甘え」と愛の関係性を深く探究し、人間関係における「甘え」の持つ多様な側面を明らかにした著書です。「甘え」は愛情関係において重要な役割を果たし、適切に表現されることで愛を深め、自己の心の成熟を促すものとなります。一方で、「甘え」が過剰であったり歪んだ形で表現されると、愛情関係に亀裂を生じさせ、愛を失わせる要因となることもあります。


 本書を通して、「甘え」が愛情関係においてどのように機能し、またそれが自己の心の成熟にどのように影響するのかを学ぶことができます。そして、愛情関係において健全な「甘え」を通して自己と他者を理解し、愛を深めることの大切さを再認識することができるでしょう。

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