ヴィルトゥオーソ・シンドローム
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パリを中心とするヨーロッパの音楽界をピアノ・ヴィルトゥオーソ・シンドロームが席捲したのは、大きく言って1830年に始まり1848年の革命で終わる、いわゆる7月王政の時代である。ショパンがパリに到着したのも、リストがパガニーニを聴いてピアノのデーモンたらんとする決意をしたのも1831年であり、対するに1848年にはリストはワイマールの楽長として招待され、実質的にピアニストとしてのキャリアから引退しており、ショパンは翌1849年に亡くなった。19世紀も後半になると人々はヴィルトゥオーソ狂詩曲には飽き始め、クラーラ・シューマンやハンス・フォン・ビューローのようにバッハやベートーヴェンのような古典を粛々と弾くタイプのピアニストが主役となり始める。
金融業者、取引所仲買人、商人はますます金持ちとなり、その上、政治的にも地歩を獲得した。今や彼らは金と権力を享受しようと欲した。だが、彼らは自分の財産を眼に見えるように誇示すること以外、どうゆう風にして自分の財産を享受することが出来ただろうか?明明白白な効果を求める止み難い衝動が、上層の階級の心を捉えていた。そしてついには豪奢が信用を高めた。美しい豪華な馬車を競い、住居を本当の宝物庫に作り上げた。金が決定的な価値の基準だったので、可能な限り全ての壁や家具が金メッキを施された。さらに晩に、それだけで既に1万2千ないし1万5千フランに値するシャンデリアが輝いていた時には、サロンの中には燃え上がるろうそくのきらめきと火花が満ち溢れていた。
ヴィルトゥオーソという言葉が持つ栄光と魅惑と一抹のいかがわしさは、19世紀という時代とわかち難く結びついている。18世紀でも20世紀でもない、この新興ブルジョワと資本主義と工業化の時代こそが、ピアノ・ヴィルトゥオーソたちの永遠の故郷である。目も眩む軽業で道行く人々を眩惑する大道芸人は、いつの時代にも居たであろう。機械のように緻密な技巧を誇るテクニシャンは、20世紀後半以後、とりわけ国際コンクール等の隆盛とともに激増した。しかしながら居酒屋で超絶技巧を披露するロマのヴァイオリン弾きにも、あるいはいかなる難曲もノーミスで弾いてのける若手ピアニストにも、ヴィルトゥオーソという言葉が文句なしに当てはまるわけではない。一方に異世界からやってきた流浪の楽師の前近代。他方に光り輝くメカニックの超現代。この2つの極がちょうど入り混じっていた19世紀という地点に成立したのが、ヴィルトゥオーソという現象であった。
リストやショパンが活躍した1830〜40年代は、ヴィルトゥオーソ・ピアニストの全盛時代であったが、面白いことに彼らの妙技はしばしば電気や光のメタファーによって語られている。こうした同時代人の評はとても多い。音楽そのものについてではなく、会場を描写したものであるが、パリに於けるショパンのコンサートを描いたリストの次の1文は印象的である。「このあいだの月曜の夜8時、プレイエルのサロンは目も眩む照明に照らされて輝いていた。長い馬車の行列が絶え間なしに、優雅な女性、有名な芸術家、金満家、貴族たちを、絨毯が敷かれて、花の香りでむせるような階段へとお連れするのだった。社交界の全ての花が、全ての生まれながらの、そして金満貴族が、全ての芸術と美の貴族が、そこに集まっていた。」
言うまでもなくヴァイオリンはロマの楽器であり、死の舞踏を踊らせる死神が奏でる楽器でもある。パガニーニは悪魔と契約して超絶技巧を手に入れたと、同時代の人々に噂されたことを思い出してもいい。ヴァイオリンには魔界からの使者だとか、狂気の呪術師といったイメージがこびりついている。それに対して、実質的に19世紀に入って生まれたピアノは、典型的な近代の工業製品である。あらゆる楽器の中で最も機械に近い楽器がピアノなのだ。19世紀後半の万博には必ずピアノ会社のブースがあり、毎回新たな機構を搭載した新機種が話題になった。現代でいえばピアノは、自動車のようなものだった。鉄製メカの魅惑、技術が切り開く輝かしい未来、人類の進歩の象徴がピアノである。
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チェリーピアノ(松崎楓ピアノ教室)/北海道釧路市ピアノ教室/cherry-piano.com
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