フレデリック・ショパンの失われた恋

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 コンスタンツィアはワルシャワのオペラ劇場のステージでほんの少しの間、脚光を浴びたがすぐに忘れられ、1832年に資産家の貴族ユゼフ・グラボフスキと結婚し、5人の子供の母親となった。35歳の時、急性視神経症で失明して1889年に死去したが、晩年にフレデリックの事を「気まぐれ」と評している。ヴェジンスキによれコンスタンツィアは死の数日前に青春の思い出の品々を破棄したが、その中には彼女がもはや見ることもかなわぬまま永年身につけてきたショパンの肖像があったという。フレデリックコンスタンツィアの事をなかなか忘れられなかった。
 ショパンにとってコンスタンツィアとは何であったか? いずれにせよ、それは現実コンスタンツィアではなく、ショパンにとっての永遠の女性のイメージであったに違いないし、ショパンの心に映ったある瞬間のコンスタンツィアがいつしか理想化されていった姿だったのだろう。そしてそのコンスタンツィアが例えフレデリックの幻想であったにしろ、彼の創作本能に大きな翼を与え、あの美しいコンチェルトを生み出すきっかけや活力となったのだとしたら、私達は彼女に感謝しなければならない。
 へ短調のピアノ・コンチェルトはショパンの青春に於ける名曲であり、フレデリックにとって音楽の新しい世界を拓く分岐点となった事は疑う余地がない。それは青春という言葉が意味するように、古くて新しい感情に溢れ、ショパンのそれまでの作曲様式の集大成であり、総決算でもあり、同時にまた、新しい試練に出会う場所でもあった。
 コンスタンツィアにもショパンの恋にも全く知識を持たない人が聴いても、この名曲にはピアノコンチェルトとして作品自体の自律性が見事に確立されていることがわかるはずだ。また、女性への恋情ひとつをとってみても、ショパンの恋はワグナーが感情の昂ぶりを官能的な愛の音楽に昇華していったのとは随分、事情が違っている。
 ショパンを語る時、いつも引き合いに出されるこの恋を巡っては、様々な研究家がさまざまな理由づけを試みている。愛を捨てて音楽を選んだのだとか、夢が現実になるのが怖かったのだとかという説がある。しかし、実際のところショパンは「ふられた」のである。
 妹のイザベラがフレデリックに宛てた1831年の手紙にこんな言葉があった。「私もお兄様と同じように、こんな不人情なことがよくも出来たものと思います。立派なお屋敷のほうがずっと大きな魅力だったことがはっきりわかります。あの方は、歌をうたうことだけにしか情熱を持たなかったのですね。」

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