ドラクロワが描いたショパンとサンド

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 1838年の6月にサンドの望みがかなった。サンドが親しい友人シャルロット・マルリアー二伯爵夫人宅に滞在した間のことである。マルリアー二伯爵はパリのスペイン領事をしていて、フランス人の夫人シャルロットはこのころ、サンドの最も親しい友人だった。サンドは自分の到着を知らせないでショパンを驚かせようとしたが、ショパンはマルリアーニから聞いて知っていることや、毎日、その到着を心待ちにしていたと手紙に書いてサンドを喜ばせた。サンドを知れば知るほど魅力的で、母のような温かさが心地よく、異国に暮らすショパンにとっては救いとなった。音楽を理解し絵を描き、文学をその生活の糧とするサンドはロマン主義の申し子のように情熱的で行動的だが、恋に於いては時に母のような慈愛で相手を包み込んでいた。このころの様子を二人の親友であるウジェーヌ・ドラクロワがキャンバスに残している。
 ドラクロワはまずはサンドと知り合った。ドラクロワは史実に題材を得たものを描いて批評の矢面に立たされることがあった。サンドと出会う前に描いた「キオス島の虐殺」も「サルナダパール王の死」も、人間が極限に置かれた時の表情を生々しいまでに表現して、あまりの情念と残虐さで見る者に衝撃を与えた。ドラクロワは「人間」を描こうとしていた。このことがサンドに強い共感を抱かせたのであろう。サンドもありのままの「人間」を、とりわけ女性がいかに人間らしく自由に生きるかを題材としていたからである。
 やがてドラクロワはショパンと親友になった。ショパンにはドラクロワの絵は強烈すぎて理解できなかったが、ドラクロワはショパンの音楽を深く愛した。芸術への理解は互いに異なっていても、二人はお互いを大切にし、語り明かす事を何よりもの楽しみとした。
 サンドとショパンとの友情を大切にしたドラクロワは、愛し合う二人の様子を絵に留めることにした。今も残るサンジェルマン・デ・プレのアトリエにピアノを入れて、1838年半ばにデッサンを始めた。それは100×150センチのキャンバスに描かれたが、ドラクロワの死後、アトリエに置かれたままの状態で発見された。分割されるとショパンの部分だけが820フランで買い取られ、ルーブル博物館所有となった。サンドの絵はその2年後の1887年に競売にかけられ、デンマーク人の大金持ちの実業家に買い取られた。所有者の死後、オードルップゴー・コレクションと命名され、ロマン派以降の巨匠たちの絵とともに、今もコペンハーゲンから車で30分ほどの緑深い美しい屋敷に飾られ、その際立つ存在感で見る者を惹きつけている。

 分割された2枚の絵を想像して1枚のキャンバスに入れ直して見ると、二人の表情の意味がより一層、鮮明になる。ショパンは芸術を担う覇者として決然とした情熱を示し、一方、サンドは、憧れのショパンの音楽に身を委ねて夢見心地だ。

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