「結婚潮流」に於いて、彼女たちは一体どんな企画を組んだのかを見てみる。なんといっても驚きなのは「100人の釣書」! 男性100人の釣書が毎号所狭しと並んで、まるで誌上お見合いだ。実際、これとタイアップした結婚情報サービスも提供された。
もう一つの目玉企画は「職業別アタックシリーズ」。毎回「◯◯と結婚する方法」というタイトルを掲げて目を惹く。初めのうちは、医者、ボンボン(御曹司)、弁護士、海外赴任する商社マン、パイロットといったあたりが並んでいかにも下世話な感じだったが、数年経つとさすがに弾切れを起こしたのか、学校の先生、電力マンといった具合になっていった。官僚特集の回には霞が関の男性高級官僚たちが回し読みをしたという逸話もあるし、実際この企画目的の男性読者が購入者の3〜4割を占めていたようだ(「読者のお便りから」「結婚潮流」83年9月号)
こうした企画からも明らかなように、「結婚潮流」は結婚雑誌とはいえ「ゼクシィ」のように結婚予定のカップルを想定読者にしていたわけではない。むしろ婚活中、婚活を考えている若い女性に向けて書かれている。
加えて注目すべきは、戦略的に結婚を考えようとする一貫した態度だ。現代の婚活にとても親和的で、これを80年代の婚活論「婚活論0・0」と呼ぶ理由がある。
この間ある所で講演を頼まれて、女性は18歳になったら結婚を真剣に考え、男性を探すべきであると、大声で叫んで来たんです。むろん大学へ行っても、さらに就職しても、女性は生涯の伴侶を探すべきです。その方が女性は大きく生きられると思います。
(「読者のお便りから」「結婚潮流」83年9月号)
とはいえ「職業別アタックシリーズ」などは、まるで合コンテクニック本のようで、いかにも下世話な感じはある。当時の投書欄にも「私は結婚はテクニックではないと思う」(大阪市・公務員・30代・高卒)という書き込みがあったりした。
この投書に対して編集部は「あなたのご指摘、その通りだと思います。ですから「医者や弁護士と結婚する方法」も、一部ご指摘のテクニック論もありますが、医者や弁護士の妻になるのは、単なる憧れや打算ではだめで、それなりの自覚を持つべきだという方向に重点を置いた編集をしています」と答えている(「読者のお便りから」「結婚潮流」83年6月号)。とにかく独身脱出を最終地点とせず、結婚生活まで射程に入れていたことは確かにこの雑誌の売りだった。評論家・樋口恵子による雑誌批評に応えて、荒谷めぐみは次のように語っている。
この雑誌は、結婚する前に読んでもらう本なんです。私たちは、結婚式がハッピーエンドではなくて、ハッピービギニングであると思っています。いかに幸せを2人でつくっていくか、ということに主眼をおいています。
(「女にとって?の本」「クロワッサン」83年5月25日号)
そもそも、かつてのイエ制度のもとでは結婚はイエの存続という壮大なるプロセスの一部だった。そして、イエに合う、つまり結婚生活に合う相手をマッチングする見合いという配偶者選択はそれに適した制度だった。ところが、イエ制度が崩壊し、恋愛結婚が隆盛するようになると、恋愛→独身脱出ばかりが強調されて、結婚生活が軽視されるようになる。そんななか、雑誌「結婚潮流」は結婚生活の重視を訴えることで、恋愛→独身脱出→結婚生活というプロセスとして結婚を再構成しようとしていたと整理できるだろう。
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