歴史を変える恋の力

　嫌いな言葉だが、「英雄、色を好む」というのがある。「色」という言葉が嫌いなのだ。

　「色」を「恋」に改めればよい。
　「英雄、恋を好む」

　　しかし、この言葉は逆なのだ。英雄だから恋をしたのではない。恋をしたから英雄になったのだ。恋をしたからこそ、ふるいたったのだ。

　ゲーテが恋をしなければ「若きウエルテムの悩み」は書かれなかったろう。ダンテも、キエルケゴールも。文学者が、哲学者が、恋をし、恋に苦しんだからこそ古典を残したのだ。

　ベートーベンだって、トルストイだってそうだ。
　ただ彼らは皆まじめだった。本当の意味で、まじめだった。人生に真剣だった。

　人生をいい加減にごまかして生きたり、表面上の真面目さだけの人間は、たとえ恋しても何も残さない。人生に真剣だからこそ、恋に悩み苦しみ、傷ついたのだ。アウグスティヌスもルターも。人類の宗教は、こうした悩みと傷から生まれてきたのだ。

　女性は、自分の一言によって、人類の歴史を変えるほど大きな力を持っていることに気付かない。