二人だけに秘められるもの

　激しく恋するのでなければ、わずかなもので満足できよう。しかし、その人の今までの人生観、世界観を根本から揺り動かすほど激しく恋してしまったら、人間は決して僅かなもので満足しはしない。だがしかし、満足しなければならないのが人間なのだ。そして、その満ち足りようとする気持を外に向けていくより仕方がない。

　
　そして、その直接に恋人に向けることのできないエネルギーを、激しく外の世界にぶっつけ、その過労の中で恋心を満足させるより仕方ないのだ。

　その女性を本当に恋したという証拠のためにも、男は倒れなければならない。

　男の恋のあかしは、人前で結婚式をして、安っぽい愛を誓うことではなく、仕事の中で倒れることなのだ。ケバケバしたシャンデリアの輝きと、虚ろな、それでいて盛大な拍手の中でウエディングケーキにナイフを入れることが恋ではなく、永遠に二人だけの胸にしまっておく秘められたものが、恋なのだ。

　ああ、これほど神聖で秘められたものを、人々はどうして人前にさらそうとするのか。そして女性は、人前にさらしさえすれば、喜んで体さえも与えるのだ。

　わずかな想い出を胸に秘めて、理想のために戦っている男の恋を、女性は理解しないのだ。