「織姫と彦星」の香水デート

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 その夜、私はサントリーホールの観客席にいた。マリア・カラスの再来といわれるルチア・アリベルティーのコンサートに赴いたのだ。その日の演目は、「椿姫」だった。


 私は、お気に入りのココアブラウンのツーピースに、イヤリングとお揃いの銀の指輪をはめて、梅雨寒のひとりの夜を、演出していた。私はその頃から、どこへでもひとりで行くのが好きだった。


 「ああそはかのひとか」「乾杯の歌」・・・・。私はアリベルティの美しい歌声に誘われるように「椿姫」の世界に自分を置いて、悲しい恋の物語に陶酔していた。


 第一幕が終わった休憩時間、私はホールの中のスタンドバーに行った。アイスコーヒーを注文し、カウンターの隅で飲んでいたときだ。


 「これ、あなたのじゃありませんか」


 ふいに背後から声をかけられた。驚いて振り返ると、スーツ姿の見知らぬ男がたっていた。 「これです」


 差し出した男の掌には、銀のイヤリングが光っていた。あわてて耳に手をやると、右耳のイヤリングがなくなっている。知らないうちに落としたのだろう。


 「すみません・・・」


 そういって、彼の目を見つめたとき、私はえもいわれぬ懐かしさを覚えた。バーに流れているBGMが一瞬聞こえなくなり、言葉にならない思いを、相手に気付かれないように、あわてて胸にしまい込んだ。


 突然私の目の前に現れた男性は、OL時代の恋人に瓜二つだったのだ。心の深いところで、ずっと眠っていたその人への想いが、彼に出会ったことで、灯をともされたのかもいsれない。あたたかみのある低い声、やわらかい髪、涼しげな瞳、同じ銀行に勤めていた恋人が、転勤でドイツに渡ったと聞いたのは、別れて1年後のことだった。すずかけの並木道を歩く彼の隣には、もうすでに美しい恋人がいることだろう・・・・。


 第二幕の始まりを知らせるベルの音で、私ははっと我に返った。彼は少し困ったような顔をして微笑んだ。そのとき、彼のコロンが心地よく私の鼻先をよぎった。まだ知らない香りだった。


 「もう二部がはじまりますね」


 彼と再会したのは、それからわずか一週間後のことだった。私がひとり暮らしをしていたアパートのすぐ近くにある美術館でのことだ。このときも例によって、私はひとりだった。


 一枚の油絵に見入っていた私は、背後に覚えのあるコロンの匂いを感じた。コロンの香りはコンサートの時と同じように、私のすぐ後ろに近づいてきた。振り返ったそこには、紺ブレにチノパンをはいた彼が立っていたのだ。


 「やっぱりそうだった!」


 少し興奮したような口ぶりだった。普段着だったせいもあって、コンサートの夜よりも若々しく見えた。


 「すっごい偶然!こういうことって、あるのねえ」


 「いやあ、偶然じゃないかもしれないよ」


 私たちは、その後いっしょに絵を見て回り、美術館にある喫茶室でコーヒーを飲むことにした。


 「まあ、キレイ」


 池の水面の反射で、水かげろうが映るのを眺めながら、私はジーンズで来てしまったことを後悔していた。


 「君は、コンサートの次は美術展ですか」


 「ええ、めったに来ないんですけど、この近くに住んでいるので」


 彼は、仕事は美術商をしているのだといった。落ち着いた物腰はある程度の年齢を感じさせたが、アイビー調の服装が、彼をかなり若く見せていた。


 私はさり気なく彼の左手に目をやった。薬指にリングはなかった。


 「あっそうだ、いいものがある」


 彼はバッグから、映画のチケットをとりだし、一枚を私の前に置いた。


 「試写会の券、よかったらどうぞ・・・」


 「あなたも行くの?」


 「嫌でなければ、お供させていただきますけど?」


 その日、私は終始はしゃいでいた。気がつくとすでに2時間が過ぎていた。


 私たちは、試写会に行く約束をし、私はアパートの電話番号を、彼は画廊の電話番号を教えあった。その時点で、私は彼に家庭があることをなんとなく感じていた。


 その夜、髪を洗っているときに、昼間彼のいった言葉が、蘇ってきた。


 「偶然じゃないかもしれないよ・・・」


 私は風呂からあがると、スッピンの顔を手鏡に映した。右、左、斜め、手鏡の角度をすこしずつ変え、しばらく自分の顔に見入った。そういえば、この頃鏡を見る時間が、めっきり減っていたような気がする・・・。


 そして新しい香水の箱を開けた。”アマゾン”・・・爽やかで力強いその香りに、私にはある予感があった。はじまっているのかもしれない・・・。


 映画の試写会の日は、7月7日だった。私は朝から祈るような思いで、雨が降らないことを願った。私たちの初デートもさることながら、年に一度の織姫と彦星のデートを、何とか叶えてあげたいのだ。


 私がグレーの麻のスーツにブラシをかけ、服に合わせるマフラーを選んでいたとき、電話のベルが鳴った。硬いフローリングの床に響いたベルの冷たい音に、私はよくない知らせだと、直感的に思った。


 「もしもし、先日はどうも・・・」
 彼だった。


 「実は、叔父がなくなって・・・。本当に申し訳ないんだけど、今日はキャンセルしてもらえないかな・・・」


 「あなたが誘ったのに・・・」


 「だから、本当にゴメン!」


 突然できてしまった午後の空白をどうしたものかと、私は考えあぐねた。ふと部屋の中を見渡すと、アパートに越したばかりの頃、俳句の仲間から贈られた水中花が、ガラス瓶の中で色鮮やかに咲いていた。


 私は気を取り直して、水中花の水を替え、にわかに暗くなってきた空を見上げた。ことしもまた、天上のデートは見送りかな・・・。


 私は、年に一度の逢瀬に、きまって雨が降る星の恋と、今日の自分たちを重ね合わせて急に淋しくなった。もしかしたら、神サマがストップをかけているのかもしれない。ここで踏みとどまった方が・・・。


 遠くで雷の音がしている。「偶然じゃないかもしれないよ」・・・。


 その時、玄関のインターホンが勢いよく鳴った。


 「花屋です!」


 ドアを開けると、箱で、すっかり上半身の隠れてしまった配達の青年が立っていた。箱の中には、淡いピンクのトルコ桔梗の花束と、メッセージカードが入っていた。”今日は、本当にごめんなさい”


 遠 雷 や 箱 に 納 ま り 花 届 く


 突然、激しく地をうちはじめた雨の音をききながら、そのとき私は、もう戻れないかもしれない・・・と思った。






















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