恋した女の一言を求めて

　女をもっとも恋した男は、もっとも男らしく生きるに違いない。その女のために。
　男の本当の恋は、皆に見送られて、手をふって新婚旅行に出かけることではない。
　その恋した女から、たった一言、「男らしく生きたわね」といわれるために、命がけの冒険をやることなのだ。それが男の恋心というものなのだ。
　たった一言、その女から「頑張って！」という言葉を手に入れるために、あらゆる危険を冒すこと、それが男の恋なのだ。
　いままで自分が築いてきた一切が無駄になる危険を冒しても、たった一言「体に気をつけて」という言葉を手に入れようとするのが男の恋なのだ。　
　それを、スーツケースを持ち、新幹線に乗って、皆から「万歳！」を言われて送られるとき、女は自分がもっとも愛されていると思い込む。
　それは愛でも、恋でもない。それは行事にしか過ぎない。舞台の上の芝居にしかすぎない。
　恋とは、ひと目につかない、静かな、気付かれさえもしないようなもののなかに、本当のものがあるのだ。