婚活とは何か？

（１）たとえ離婚するとしても結婚したい

　恋愛や共同生活や子供といった結婚の前提となる三要素は、個別には婚姻外でも調達可能だ。だから、人が積極的に結婚する理由は論理的にはあまりない。しかし、現実には多くの人が、そうした要素を長期的、拘束的なものにしようと「結婚」を目指す。別に法律婚でなくとも事実婚でも良い。「結婚」というステータスにこだわるのである。

　そんな時、人はただその関係を二人の間に確かなものにしようと思っているだけではない。上手く運んでいる恋愛や、共同生活や、育児は、「結婚」というステータスがなかったとしてもそのまま長続きするだろう。ところが、多くの人は第三者の承認を得たいと考える。彼/彼女が恋愛している、共同生活をしている、子供がいる、そしてなにより結婚しているということは、彼/彼女を受け入れてくれる誰かがいるという証明。エッセイスト・酒井順子に言わせれば、かつて「負け犬」はそうした要素の不在ゆえに嘲笑の対象になった。

　「あの人って、女として幸せじゃないって感じだよね！」
　というフレーズはつまり、「なんだかんだ言ったってさぁ、あの人って現時点で男から選ばれてないってことでしょ！」という意味を持つ。

　年齢非公表の女優・吉田羊は結婚願望について問われて「あります！」と明言したが、次のような理由もその顕れだ。

　結婚できないわけじゃないよって示すためにも一回はしたいですね。たとえ離婚するとしても（笑）ご縁ですからわからないけど、三年後くらいまでには叶えたいかな。

だからこそ、次のような「結婚の技術」が唱えられることにもなる。

　「お試し婚」でサクッと、「負け犬」状態からの離脱を図りましょう。
　とにかく「名誉あるバツイチ」状態へとコマを進めることが肝心です。

（２）独身脱出と結婚生活

　ここで目指されているのは第三者への、ないし社会への見栄としての結婚である。決してその先の結婚生活ではない。これは日本語で「結婚」と言うとき、しばしば誤解を生じるポイントだ。未婚者にとっての「結婚」は一般に結婚する行為を指すが、既婚者にとっての「結婚」は結婚している状態を指すことが多い。

　この「結婚」の二つのフェイズをそれぞれ「独身脱出」と「結婚生活」と呼び分ける。そして単に「結婚」と言うとき、二つのフェイズを併せたものとして表現することにする。

　結婚生活がプロセスであるのに対して、独身脱出は婚姻届の提出や結婚式などによって結婚生活のスタート地点に立つことだ。人が「結婚したい！」と言う時、それは一般に独身を脱出したいという希望を表すが、「良い結婚をしたい！」と言う場合には、ただ感動的な結婚式を挙げるに留まらず、実りある結婚生活への展望を含んでいると言えるだろう。

　この二つを峻別した時、現代日本で一般的な恋愛結婚は次のようなプロセスとして理解することが出来る。
　＜恋愛→独身脱出→結婚生活＞

　そこではいかに独身脱出するかという「婚活（結婚活動）」は、恋愛と結婚生活とをいかにつなぎ合わせるかという活動だと位置づけられる。そしてまた、いまこの現代日本で婚活を議論するにあたって注意しておきたいのは、平均寿命が延びるにつれて結婚生活の重要性がますます高まっているという事実である。1980年代半ばの時点で、心理学者・河合隼雄は次のように書いている。

　結婚式に於いては、「ここに、二人はめでたくゴールインされ」などという挨拶が聞かれるが、結婚はゴールインどころか、それから長い困難に満ちたレースのスタートラインに立ったばかりなのである。しかも、現代では、平均寿命が長くなったので、そのレースは途方もなく長いものとなった。

　「人生100年時代」にますます結婚生活の側面が重要性を増しているのは言うまでもない。こうして婚活論は、恋愛論と結婚生活を巡る議論を接合するのみならず、老後や介護までをも含んだ広範な議論を包含するようになる。言ってみれば、個人個人が社会の目を気にしながら、それぞれの生をどのように構想するかが、婚活論には凝縮して現れるのである。