人生を知る恋

　人間は恋をすると人生を知る。なぜならば、恋をした時、人は初めて、人生には自分の力ではどうにもならないことがあるのだ、ということを知るからだ。
　努力や意志と関係なく、様々なことが起こる。それが人生なのだ。そしてそれを受け入れていく、それが人生なのだ。現実は受け入れるより他に、どうすることも出来ない。
　人間は他人の人生に責任を持てない。どんなにあがいても人間は他人の運命の主体とはなり得ない。人間はどんなことがあっても皆、自分ひとりで自分の運命の責任をとっていかなければならない。
　しかるに、これが人を愛する時、人はその愛する人の運命に影響を与える。
　恋しあった時、人はその人の運命に確実に一つの力を持ち、影響を与える。だがその影響によって、その恋された人が不幸になった時、恋した人はいったいどうやってその責任をとればいいのだ。
　人間は、愛するという、人間にとって最も根本的なことに於いてさえ他人の運命との関わり合いに於いてのみ実現できるのだ。人間は他人の運命に関わり合うことなしに生きていくことが出来ないにも関わらず、他人の運命に責任を持てないのだ。