ロシアの輝けるヴィルトゥオーゾ ラフマニノフ

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<ロシア音楽の2つの潮流>
 ロシアには、19世紀になるまでこれといった芸術音楽が育たなかった。しかし19世紀半ば過ぎからイタリアやドイツで音楽を学び同時にロマン主義の影響を受けたグリンカや、フランスで音楽を学んだダルゴムイシスキーらが登場、民族固有の芸術音楽の創造を目指したロシア国民楽派として活動し、ペテルブルグ音楽院が開講したのである。ペテルブルグの音楽の中心はバラキレフら「力強い仲間(5人組)」で、意識的に民謡の旋律やリズムを取り入れた。


 一方で1866年に開講したモスクワ音楽院は、初代院長がニコライ・ルビンシテインという当時第1級のピアニストで、西欧古典音楽的な色合いを備えていたと言える。ラフマニノフがペテルブルグからモスクワへ音楽院を移ったのは、ルビンシテイン院長の愛弟子で、フランツ・リストにも師事した従兄弟ジローティの勧めがあったためだ(ジローティはまたラフマニノフのピアノの師でもある)。この経歴がラフマニノフの音楽の特徴に深く関わることになる。彼の音楽的規範はショパンやリストであり、チャイコフスキーが見せたロシア民族音楽と西欧音楽との折衷を、ラフマニノフは受け継ぐのである。


<ヴィルトゥオーゾ・ピアニストの手>
 難曲と言われるピアノ曲の作曲者は、例外なくピアノのヴィルトゥオーゾたちだ。18世紀のピアノの神童だったムティオ・クレメンティは晩年教育者になって、有名なピアノ教則本「グラドウス・アド・パルナッスム(パルナス山への階段)」を書いたが、他の有名ピアニストたちは、概ね超絶技巧ほとばしる名曲難曲を書いて、後世の学徒を悩ませることになる。その代表格リストの手をかたどった石膏が残っているが、驚くほど指が長い。指股の水かきを切っていたと言われる。そしてまた、ラフマニノフも大きな手の持ち主だったらしい。ピアノの名手となるにはどうやら、手の大きさ、指の長さも重要な要素なのだ。ラフマニノフは自作を演奏した録音も残っており、CDが入手できる。


 指揮者としても高い評価を受けており、自作の交響曲第3番を指揮した録音が残っている。


 チャイコフスキーの後継にふさわしく、ラフマニノフもメランコリックな叙情性の持ち主で、そのあたりが今なお高い人気の秘密であろう。


 オーストラリアのピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いた映画「シャイン」はラフマニノフのピアノ協奏曲なくしては考えられない。


 ラフマニノフは、音楽に新しい地平を拓こうとするタイプではなかったが、その音楽の使われ方は、ラフマニノフのロマン派的な情念の表現が現代にあっても魅力を放つ証しといえよう。


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