クラシック音楽とは何か

　一般には、１８世紀から１９世紀にかけて、教会や宮廷、サロン、コンサートホールで演奏されたヨーロッパの音楽を指す。また、日本やアジア、ラテンアメリカなどで書かれた現代音楽もクラシック音楽に含めることがある。クラシック音楽の発展段階は、その歴史を大きく３つの時期に分けて、バロック音楽、古典派、ロマン派と呼びます。
　このクラシックという言葉の語源は、ラテン語のclassis（階級）から派生したclassicus（第１階級に属する）である。「一流の」「最高水準の」という意味が込められてる。そして、もう一つの意味は、有事の際に街の防衛のため艦隊を提供できる市民のことを指す。つまり困難に際して心身の命を守るものもクラシックということです。
　中世哲学研究者の今道友信は、次のように言った。「危機に際して精神の力を与える書物や作品のことを、クラシクス（クラシック）と呼ぶ。
　作曲家たちは何百、何千曲にのぼる作品を発表したが、現在まで遺っているものは、とてもわずかである。数百年にも渡り、引き継がれてきた作品は、まさに一流であり、有事に応えてくれるものである。
　そして、Music（音楽）の語源は、ギリシャ神話の「ミューズ（ムーサ）に遡る。ミューズの恩寵にあずかる人間の営み（音楽、詩作など）を意味するギリシャ語mousike（ムーシケー）がその語源である。
　クラシック音楽、すなわち西洋音楽の歴史も、広義ではギリシャ時代に遡って語られる。２０００年以上前のギリシャ・ローマのような古代ヨーロッパの文明諸国で、実際に演奏された音楽がどのようなものだったか、残念ながら記録はほとんど残っていない。当時、音楽は基本的に即興であり、詩の朗読や、儀式などで用いられていたからである。
　しかし、音楽に神聖な力があるという事は、ギリシアの哲学者やラテン文学に於ける偉大な詩人らが綴っている。
　例えば古代ギリシャ神話「オルフェウス」には、音楽のもつ不思議な力が描かれている。新妻エウリュディケが蛇に噛まれて命を落とし、嘆き悲しむオルフェウスは冥界の王のもとに赴き、もう一度だけ妻に合わせて欲しいと竪琴を奏でながら吟じる。すっかり魅了された冥王は、オルフェウスの嘆願を受け入れた。オルフェウスの奏でる音楽は、人間のみならず動物や、車輪まで動かしたと神話に綴られている。音楽には人間の心を鎮め、道徳的に働きかける力があると、古代ギリシャでは考えられていた。

　また、古代ギリシャ人は、音楽のことを明確に学問とも認識していた。プラトンが設立したアカデメイアは哲学と数学を教える学園だが、同時に理想的国家を運営し、計画し、立法化する人材を養成する場でもあった。この行政官教育の予備科目として、算術、平面幾何学、立体幾何学、天文学、音楽理論が必修であった。法を学ぶ上でも、音楽の秩序を知ることが必要だという訳だ。こうしたギリシャ・ローマ時代の価値観が起点となり、中世以降のヨーロッパの大学に於いてはリベラルアーツ（人間が生きて成長していくための実践的な知恵）として、文法、修辞学、弁証法の３学と算術、幾何、音楽、天文学４学科の自由７科が教えられてきた。
　今からおよそ２５００年前、ソクラテスが音楽について語った言葉が遺っている。弟子のプラトンが「国家」で綴ったものである。
　「音楽・文芸による教育は、決定的に重要なのではないか。なぜならば、リズムと調べというものは、何にもまして魂の内奥へと深く染み込んでいき、何にもまして力強く魂をつかむものなのであって、人が正しく育てられる場合には、気品のある優美さをもたらしてその人を気品ある人間に形作り、そうでない場合には反対の人間にするのだから。
　さらに、ギリシャで最初にオリンピックが行われた時は、スポーツのみでなく、芸術のオリンピックも同時に行われていた。詩や音楽を競い合うことは重要な競技種目の一つだったのである。現代のオリンピック憲章にも、オリンピックの開催都市は、必ず芸術のオリンピックをして音楽・演劇などによって世界各国から集まる人たちの芸術的欲求を満たさなければならないと規定されている。
　このギリシャ時代から時を下り、６世紀頃から教会音楽（聖歌）が発展する。さらに１７世紀あたりから１８世紀半ばのバロック時代には、王侯貴族に仕える音楽家によって宮廷などで演奏されるようになる。
　その後、１８世紀後半以降に活躍した古典派、そして１９世紀以降のロマン派と呼ばれる音楽家たちこそ、我々がクラシック音楽と聞いて思い浮かべる人々である。バッハやモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、マーラー、ドビュッシーが次々と登場する。