女性は愛を錯覚している

　男の恋とは、孤独な戦いの中で命をすり減らし、その苦しさと厳しさの中で、その女性への愛を表すのだ。

　ああそれが、洋服を買ってやるとか、結婚式をしてやるとか、休日に買い物にいくとか、そんな行為が愛と思っているのだ。

　そして嘆かわしくも、セックスなどを愛と思っている。

　男が命がけで女性に恋したら、セックスへの欲望が消え失せる程の現実との戦いにエネルギーを使い果たすものなのだ。

　
　２０世紀の巨大な現実に断固として降伏することを拒否し、男らしさを執拗に求め、後の人類の歴史への責任を果たそうとし、戦い続け、守り続け、ヘトヘトになって目まいがして吐き気がして、頭痛に悶えて、胸の不快感を手で押さえて倒れるとき、そのとき、男は最も女性を恋しているのだ。

　
　それを女性は、甘い夜の語らいが恋だと錯覚し、男がその直前にバーの女性ともつれていたことのだらしなさを許す。そして翌朝の満員電車で女性の尻に触るような主人を許す。

　それを許すことは、自分が汚されているということを知らないのだ。