人間の矛盾・恋の矛盾

　人間は自分の人生に責任を持とうとすれば、好きになった人と一緒になるのが一番良い。そして、それが人を捨てることになるにせよ、好きな人と一緒になるということが、自分の人生に責任を持つということだ。あるいは他人の恋人であろうと、親友の奥さんでであろうと、好きになった人と一緒になるということが、自分の人生をあきらめないということだ。他人の人生に責任を持とうとすれば、自分の人生を踏みにじり、自分の人生を大切にしようとすれば他人の人生を踏みにじる。人間とは何と都合の悪い存在なのだろう。
　祝福された恋、あるいは結婚ということもある。しかし、その結婚式の陰で踏みにじられた人というのが、大抵はいるものなのだ。それがないと思うのは、無知でしかない。私は、華やかな結婚式の陰でくやし涙を流した男女を何人も知っている。
　結婚式に出て、幸福そうな人を見るたびに、その陰で泣いた人の顔が目に浮かぶ。いや、結婚式の存在自体が、結婚できないでいる女性や男性をどれほど苦しめることだろう。それにも関わらず、二人は二人の幸せだけを考えればいいのだろうか。確かに二人は二人の幸せだけを考えればいいのだ。だが、人間というのは何と罪深く矛盾して作られていることだろう。