愛へのやみがたい欲求

　愛は場と関係なく成立し、場と関係なく滅びる、と思いたい。われわれの願望は、そんなふうに愛されることである。一度でいいからそんな愛され方をしてみたいと思う。それ故に、その願望に負けて、そんな愛が存在するものだと思い込んでしまう。ちょうど、永遠に生きたいということが人間の願望だから、その願望に負けて死後の世界の存在を教える宗教があったり、神がいることを願うから、その願望に負けて我々は神の存在を信じたりするのと同じである。

　我々が本当に愛し、愛されたいという願望は、人間の存在に根ざした激しいものである。やみ難い欲求である。やみ難い欲求であるからこそ、我々は自分たちの今の愛を、本当の愛だと信じる。自分の内なる願望に負けて、現実を見誤ったのである。

　我々は、ありのままの現実を見るには弱すぎる。それ故に人間は、様々の虚構をつくり、その中に生きる。一人で生きるにはあまりにも淋しいこの人生。愛が欲しい。だからこそ愛があると信じて生きるのだ。