愛の向上のために

　弱い我々日本人が「自分のために生きる」というと、それは、自らの可能性を伸ばし、それによって自分にも他人にも貢献するという本来の意味にはならず、エゴイズムの意味になってしまう。つまり「自分のために生きる」ということは、まさにそういう生き方こそが他人の生にもプラスになるにも関わらず、何か自分勝手なことをやって他人の迷惑を考えないということになる。それは我々はお互い弱い日本人だからであろう。
　恋愛に於いて一方が自立することをせずに、全て「あなたのため」と寄りかかって来たら、それは他方にとって迷惑以外の何物でもない。お互いの自由な結びつきがあるためには、互いに各自の世界をある程度は持たなければならない。そして各自の世界を持つことによって初めて、その結びつきは永続的なものとなるのではなかろうか。お互い「あなたのため」に生きたとしたら、たちまち飽きが来る。人間が自分の世界を持つということは辛い厳しいことなのだ。安楽に生きようとすれば、人間は自分の世界を持たないのがいい。しかし自分の世界を持たないことによって安楽なのは自分だけであり、まわりはそれによって迷惑する。
　全てあなたのためになどという人間には、まず向上というのがない。自らを向上させ、より美しく、より魅力的になることが何よりも相手への献身的な愛なのではなかろうか。