サロン音楽の美学

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 グランド・オペラと並ぶ19世紀の娯楽音楽のもう一つの代表的ジャンルが、いわゆるサロン音楽である。これは厳密な意味での芸術音楽というよりもBGMに近い。現代で言えば、高級ホテルのラウンジの白いピアノで弾かれる、ムードミュージックのようなものだ。

 19世紀の金持ちにとってサロンは、いい縁組を求めて自分の娘を社交界デビューさせるための、非常に重要な機会だった。従って19世紀の「お嬢様」にとって欠くことの出来ない素養のひとつが、ピアノを弾けることだった。気取った会話と恋とゴシップ、シャンデリアと赤い絨毯、ワイングラスが触れ合う音、次々に乗り付けられる豪華な馬車、タキシードやドレスで着飾った紳士淑女ーこんな場で令嬢たちは、一体どんな曲を披露したのか。言うまでもなくベートーヴェンのソナタではない。彼女たちの持ちネタの定番は、19世紀のリチャード・クレイダーマンのようなロマンチックな小品、例えばポーランドの女流作曲家テクラ・バダジェフスカの「乙女の祈り」のような曲である。

 19世紀に於いてはこの種のムードミュージックが無数にに出版された。これらは「〇〇の夢」とか「春の〇〇」とか「〇〇幻想曲」とか「朝の〇〇」といったロマンチックな題名を持ち、ショパン風だがもっと甘くて通俗的なメロディーを安手のドレスのような装飾音符で飾り立てた、「似非高級ブランド音楽」とでも形容すべきものであった。

 今でもヨーロッパの音楽専門の古本屋に行くと、これらの19世紀サロン音楽の楽譜がしばしば山積みにされ、二束三文で売りに出されている。19世紀といえばシューマンやブラームスやワーグナーやブルックナーといった「大作曲家」の名前がすぐに思い出されるが、実はロマン派の時代に作られた音楽の大多数は、この種ののBGMだったのである。

 そしてー現代では十把ひとからげで「クラシック」に分類されるけれどもー実はショパンやリストらのピアノ曲もまた、こうしたムードミュージックの伝統の中から生まれてきたのであって、ピアニストとしての彼らの主たる活動の場はパリのサロンであり、彼らは大金持ちのご夫人や令嬢を相手にピアノのレッスンをし、場合によっては彼女らのために曲を書いてやり、そして彼女らを相手に妙技を披露してみせたのであった。後のフォーレやドビュッシーやラヴェルのピアノ曲の多くもまた、サロン音楽を極度に洗練したものと見なすことが出来る。

 サロン音楽の美学は、「ステレオタイプな甘い愛のささやきを極上のエスプリと優雅な身のこなしでもって演出する技」とでも定式化出来る。饒舌と難解な熱弁はご法度。つまりベートーヴェン的な音楽の対極にあるのがサロン音楽だ。

 その意味でショパンの「前奏曲集」作品28の第7曲(イ長調)は、2つの点でサロン音楽の規範と言える(以前、太田胃散のBGMに使われていた、1分にも満たないマズルカ風の曲である)。

 第1にその旋律は、19世紀の作曲家が感傷的なメロディーを書く際に必ず用いる、ステレオタイプな身振りばかりを散りばめて作られている。サロン音楽に際立ったオリジナリティは要らない。「愛してるよ」とか「君が忘れられない」と言った定番の口説き文句を、いかに優雅に演出するか。それが肝要なのだ。

 そして第2に、それは短い。サロンでは難しい高尚な談義を延々続けてはいけない。ご婦人方をうんざりさせてはいけない。すれ違いざまの一言でもって、自分を彼女たちにとって気になる存在にしなければならないのだ。

 こう考えると、ショパンがこの曲集につけた「前奏曲」というタイトルは、実に意味深長であることが分かるだろう。普通は前奏曲には何かが続くものだ。「前奏曲とフーガ」。あるいは「前奏曲と第1幕」といった具合に。しかしショパンのそれは、後に何も続かない「前奏曲」なのである。何かを言い出しかけて、しかし肝心のことについては口をつぐんで黙してしまう。「あの方は一体何をおっしゃろうとしていたのかしら?」ーご婦人の心の中に波紋が広がり始めたとき、かの美青年はもう踵を返して立ち去っている。ショパンの「前奏曲集」を貫く美学は、このダンディズムである。それを東洋的な「余白の美学」の方向へとさらに展開したのが、ドビュッシーの2つの「前奏曲集」である。

 19世紀にショパンやリストが一体どんな場で弾かれていたかを知るには、ヴィスコンティの映画「イノセント」を見るのが手っ取り早い。

 始まって間もなく、サロン・コンサートの場面が出てくる。ミラノの貴族出身だったヴィスコンティにとってそれは、幼い頃に何度となく目にした類の光景だっただろう。初老の女流ピアニストがショパンの「子守唄」や「別れのワルツ」、あるいはリストの「エステ荘の噴水」といった典型的なサロン・ピースを次々に弾いていく。一部の客は熱心に耳を傾けているが、大半の人々はたわいのない雑談に興じている。その場にたまたま新妻とやってきた主人公は、そこで自分の愛人である、さる貴婦人と鉢合わせしてしまう。気位の高い彼女は、狼狽し色々と弁解する主人公を見て激怒し、捨て台詞を投げつけてその場を立ち去る。だが二人の会話がどんなに険悪になろうとも、それは決して怒声へと昂ぶることはない。相手を絶望のどん底へ突き落とす皮肉も、常に抑制したささやくような声音で口にされ、そして背後にはずっとショパンの「別れのワルツ」が流れている。

 サロン音楽は静まり返ったホールで傾聴するものではない。人々の会話を決して邪魔せず、紳士淑女のざわめきと微妙に混ざり合い、時折そこから印象的に浮き上がってくる。それがサロン音楽の精髄なのである。

 

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