そのとき恋は最も美しい

　恋とは目的とはなり得ないものだ。恋自体が目的となり、その恋を遂げるためにいろいろのことをはじめ、そしてその恋が遂げられた時には、恋は恋であることをやめるに違いないのだ。

　恋とは、理想のごとく永遠に胸に秘められたものであり、決して到達すべき地点ではないのだ。虹のように、そこに行ってみれば虹ではなくなっているのだ。

　恋は、逆説めくが、手段であることによってはじめて目的となりうるのだ。
　つまり、現実に降伏することを拒否して戦っている男が、ある乙女を心の支えにした時、はじめて恋は恋となりうるのだ。

　
　たった一人、現実と戦い、自らの胸のうちなる理想を頑なに守り続けている時、男は誰だって悲痛な気持になる。現実に降伏するよりも、旗を抱いて現実に殺されることを決意した男の心をとらえた乙女がいたなら、その乙女は、その男にとって何であろうか。

　戦っていく時の心の支えなのだ。戦い続けるための手段でしかない。

　しかしその時、恋は最も美しいのだ。