好きな人だから

　人間は複雑な動物である。様々な欲求が絡み合って出来ている。人間であるあなたは、複雑な感情の中で生きている。「異性への愛」も、他の動物のように単純明快なものではない。

　異性を求める気持も、羞恥心や虚栄と絡み合う。男性が、女性の前で、どれだけ虚勢を張っているかは、女性には到底、想像出来ない。だが、女性も男性との付き合いには、よく「プライドが許さない」ことがある。

　こうした複雑な我々の異性との関係は、常にこじれやすい。何気ない一言によってプライドが傷つく。普通の人から言われたのなら聞き流せる一言も、好きな人から言われたとなると深い傷を負う。普通の人になら寛大になれるのに、その人には厳しくなる。誰にでも許せる行為でも、その人には許せない。人は「意地の張り合いなんてばからしい」という。他人のことになると、「なんで、好きな人の前で、そんなに意地をはるのか」という。

　だが、当の本人にしてみれば、好きな人であればこそ意地を張っているのだ。だから、いったん恋がこじれると、なかなかうまくいかない。お互いに頑なに、自分の中に閉じこもってしまう。愚かな我々は、そうしたつまらない意地の張り合いで、生涯のよき伴侶となるべき人を失うこともある。つまらない意地を張って、自分の青春を失うこともある。